法人の破産とは?会社が倒産した場合の手続きと流れについて解説
会社などの法人の経営が行き詰り倒産した場合は、破産の申立てが必要になります。破産には、メリットとデメリットがありますし、手続きが複雑なので弁護士への依頼や相談が必要です。法人の倒産から破産の流れを中心に解説します。
Contents
法人の倒産とは?破産との違いや破産の注意点や手続について解説
株式会社などの法人の経営が行き詰ると、「倒産」の状態になることがあります。倒産した場合は、破産の手続きが取られることが多いです。
法人が倒産した場合は、破産だけが選択肢ではありません。民事再生、会社更生、任意整理といった方法もあります。
この記事では、法人の破産の手続きの流れや破産のメリットとデメリット、注意点や他の手続きとの違いなどを解説します。
法人の倒産とは
株式会社などの企業の経営が行き詰った場合は、倒産することがありますが、これを法人の倒産と言います。
なお、「倒産」は一般的な用語で法律用語ではありません。
株式会社などの企業が、債務超過に陥ったうえ債務の弁済ができない等、事業を継続できない状態になった場合を倒産と表現します。
法人が倒産した場合には、何らかの対処方法を検討しなければなりませんが、その選択肢の一つが「破産」になります。
法人が倒産した場合に取りうる選択肢
株式会社などの企業が倒産した場合に、取りうる手段は、大きく2つに分けられます。
再建と精算です。
再建とは、債務などを整理したうえで、もう一度事業を立て直そうとする場合に選択されます。
具体的な手続きとしては、次の3つの方法があります。
- ・民事再生
- ・会社更生
- ・任意整理
精算とは、倒産状態になったのを機に事業をやめてしまう場合です。
具体的な手続きとしては、次の2つの方法があります。
- ・破産
- ・特別清算
それぞれの手続きの概要を確認しておきましょう。
民事再生とは
民事再生は、法人や個人が多数の債務を抱えて経済的に窮境に陥った場合に、その債務を債権者の同意のもと圧縮し、返済しながら事業再建を目指す手続きです。
破産を回避し、事業の継続と経営再建を目指す目的で行われます。
民事再生法という法律に則って手続きが行われますが、
- ・債権者の多数の同意を得ること。
- ・裁判所の認可を受けた再生計画を定めること。
等が要件になります。
会社更生とは
会社更生は、株式会社のみに認められている手続きです。窮境にある株式会社が裁判所の監督の下で、抜本的な立て直しを図ります。
会社更生法という法律に則って手続きが行われますが、経営陣や株主も交替し、事業内容を全面的に見直す形になります。
一般的には、大規模な株式会社を対象に行われ、その株式会社のスポンサーになりたいという法人等がいる場合にとられる手続きです。
任意整理
民事再生と会社更生が裁判所の監督の下で、法律の定める手続きに則って、事業の再建を目指す手続きであるのに対して、任意整理は、債権者と個別に交渉したうえで、債務の圧縮や分割払いをお願いし、事業の再建を目指すものです。
その法人の債務の額が比較的少なく、事業の将来的な展望が見込める場合や債権者との関係が良好な場合に採用されます。
破産
法人が債務超過や支払不能に陥り、これ以上の事業継続が見込めない場合は、破産法に基づいて破産という手続が取られます。
法人が破産した場合は、その時点で法人が有する財産をすべて差し押さえた上で、法人の債権者に対して債権額に応じて配当します。ただ、租税債権などが優先的に配当されるため、一般的な取引先が回収できる額は少なくなりがちです。
その後、法人は解散し、法人格も消滅します。
その結果、配当しきれなかった債権が残ったとしても、法人はもちろん、法人の代表者や役員もその弁済責任を負うことはありません。
もっとも、法人の代表者が経営者保証をしている場合は、弁済義務が残ってしまいます。
特別清算
特別清算は、株式会社のみに認められた会社法に基づく手続きです。
株式会社が黒字の場合でも、会社法に基づいて清算を行うことで解散できますが、
- ・清算の遂行に著しい支障を来すべき事情がある。
- ・債務超過の疑いがある。
といった事由がある場合は、債権者のほか、清算人、監査役、株主等が裁判所に申し立てることで特別清算を行うことができます。
株式会社の清算手続になるため、株主総会の特別決議(株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二以上の多数決による決議)が必要ですし、債権者への弁済に際して債権者から同意を得る必要があります。
これに対して法人の破産は、株主総会の特別決議等を経る必要がなく、経営者の判断だけで行えますし、債権者への配当でも、債権者の同意を得る必要はありません。
法人が倒産すると破産の手続きが行われることが多い
法人が倒産した場合は、上記で紹介した手続きのうち、「破産」の手続きが取られることが多いです。
そこで、以下、法人の破産について解説していきます。
法人の破産の影響や効果
法人が破産した場合は、破産する会社はもちろんですが、取引先の企業や自社の従業員など様々な人に影響を及ぼします。
法人の破産の影響や破産による効果について確認しましょう。
法人の財産はなくなる
法人名義で様々な財産を有していると思いますが、破産した場合、こうした財産は、破産手続開始後、破産財団に組み込まれます。
破産財団に組み込まれた財産は、破産管財人の管理の下で換金され、破産債権者に配当されます。
そのため、法人名義の財産はすべてなくなるのが一般的です。
法人は消滅する
法人が破産した場合は、裁判所書記官の職権で、破産手続開始の登記がなされます。その後、破産手続きが終了すると共に、破産手続きの終了の登記がなされて、法人が消滅することになります。
債務超過にある法人が破産した場合、すべての債権者に債権を弁済できませんし、税金なども支払えないことがあります。
個人が破産しても税金の支払い義務が残りますが、法人の破産では、税金の支払い義務が消滅します。
法人が消滅してしまうため、税金を支払える人がいなくなるからです。
法人の代表者の責任
法人が破産した場合、債務超過に陥っており、債権者への弁済ができないことも珍しくありません。
この場合でも、弁済しきれなかった債務を法人の代表者が負担することは原則としてありません。法人の滞納税金が残っていた場合も、同様です。
ただ、中小企業の場合は、法人の代表者が経営者保証(法人の連帯保証者になっている)していることも多く、法人が破産して消滅しても、法人の代表者の債務が残ってしまうこともあります。
そのため、支払が難しい場合は、法人の代表者も同時に破産しなければならないこともあります。
法人の従業員への影響
法人が破産すると、会社が消滅するため、従業員も職を失うことになります。
この場合、働いた分の給料の支払いはどうなるのかが問題となりますが、破産手続開始前3月間の給料は、財団債権として、破産手続きの中で優先的に配当されることになっています。
ただ、法人が破産すると、給与も未払いとなってしまうことも珍しくありません。
この場合は、労働者健康安全機構が実施する未払い賃金立替払制度を利用することができます。
1年以上事業活動を継続していたことや裁判所への破産手続開始等の申立日の6か月前の日から2年の間に退職したことなどの要件を満たした場合に、未払賃金総額の8割まで支払いを受けられます。
法人の破産と同時に代表者の破産も必要なケース
中小企業等の法人が金融機関から資金を借り入れる場合は、法人の代表者が連帯保証人になっていることが多いです。
法人は破産により消滅するため、借入金を返済する必要がなくなりますが、連帯保証人となった法人の代表者は免責されるわけではありません。
そのため、法人を破産させても法人の代表者が借入金を返済する義務を負い続けることになってしまいます。
借入金の返済が難しい場合は、法人の破産と同時に代表者の自己破産も検討しなければなりません。
代表者の個人破産と法人破産の違い
代表者が破産する場合は、自己破産という形になります。
ただ、負債の整理方法は、破産だけではなく、弁護士による任意整理、裁判所が関与する特定調停や個人再生といった方法もあります。
破産した場合は、一定期間、特定の職業に就くことができませんし、破産管財人が選任された後は、裁判所の許可なく転居や長期の旅行ができないといった、様々な制約を受けてしまいます。
また、信用情報に関して、いわゆるブラックリストに掲載されてしまい、5年から10年ほどはローンやクレジットの審査が通らない状態が続くこともあります。
そのため、破産以外の方法も利用できるなら検討すべきです。
もっとも、経営者保証の場合は、負債の額が巨額で、個人では支払いきれない場合も珍しくないので、結局は、破産しか選択肢がないこともあります。
個人が破産した場合でも、破産者はすべての財産を失うわけではなく、生活に必要な最低限の財産は、自由財産として保有することができます。
経営者保証等の債務についても基本的には、すべて免責されますが、個人が滞納した税金などは、免責されず、支払い義務が残ることに注意しましょう。
法人破産のメリットとデメリット
株式会社等の法人を破産させることには、メリットとデメリットがあります。
メリットとしては、会社の経営者等が苦しい経営から解放されることや、取り立てが止むこと、家族も安心できるといった点が挙げられます。
負債だらけの会社を手放し、再スタートすることもできます。
デメリットとしては、会社の資産をすべて失ってしまうことや従業員や取引先にも迷惑をかけてしまうことが挙げられます。
会社の代表者は信用を失ってしまい、新たに事業を始めるにしても、思うようにいかなくなることもあります。
ただ、負債だらけで事業の好転が見込めない会社を延命させるよりも、きっぱりと破産して、もう一度やり直すことの方がメリットが大きい場合がほとんどです。
法人破産の手続と流れ
法人の破産手続きは、裁判所に書類一枚を書いて提出すれば終わるというものではありません。様々な書類を準備して裁判所に提出し、裁判所での手続きを進めていかなければなりません。
法人の破産に必要な書類の準備
法人の破産に必要な書類はたくさんありますが、作成すべき書類は次のとおりです。
- ・破産手続開始申立書
- ・債権者一覧表
- ・債務者一覧表
- ・委任状
- ・財産目録
- ・報告書
- ・破産申立に関する取締役会議事録
弁護士に委任すれば、こうした書類はすべて作成することができます。
その他、集めるべき種類は次のとおりです。
- ・法人の全部事項証明書
- ・貸借対照表・損益計算書
- ・清算貸借対照表
- ・決算書、決算報告書、確定申告書
- ・従業員名簿、賃金台帳
- ・預貯金通帳または取引明細書
- ・不動産の全部事項証明書
- ・自動車の登録事項証明書
- ・社屋の賃貸借契約書
- ・売掛金や未収金の明細書
集めるべき種類は、法人が所有する資産により異なるため、弁護士に相談して確認してください。
破産の申し立てと破産手続き開始決定
上記の必要書類がそろったら、地方裁判所に破産の申し立てを行います。
裁判所は必要に応じて、破産審尋を行ったうえで、要件を満たしていることを確認したら、破産手続開始決定がなされます。
破産管財人の選任
破産手続き開始決定がなされると破産管財人が選任されます。
これ以降、法人に届く郵便物などは、破産管財人の事務所に送られるため、法人や法人の代表者が取り立てや債務の請求、様々な追及の電話に悩まされることはなくなります。
法人の財産の調査と換価
破産管財人が法人の資産や負債について調査を行います。主に、財産隠しや債権者隠しが行われていないかという点を重点的にチェックします。
法人の資産を確認したら、不動産や動産の売却、債権回収などにより現金化を進めていきます。
債権者集会と配当
債権者集会では、破産管財人が法人の資産や負債の状況について説明し、配当できる見込み額などを示します。
配当については、財団債権が優先し、破産債権は劣後することになります。
財団債権とは、破産管財人の報酬、1年以内の滞納租税債権、破産手続開始前3か月分の従業員の給与債権等のことです。
その他の債権者は、破産債権として財団債権の後で配当を受けます。
破産手続の終了と法人の消滅
配当をすべて終えたら、破産手続きが終了します。
法人の登記については、裁判所書記官が職権で破産手続き終了の登記を行います。これにより、会社の登記も閉鎖されます。
これにより破産の処理が終わり、法人の債務が残っても、元の代表が請求を受けることはありませんし、電話にも対応する必要はなくなります。
法人破産が認められるための要件
法人破産は、破産原因がなければ、行うことができません。
法人の破産原因は、支払不能又は債務超過とされています(破産法16条)。
支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」のこと(破産法2条11号)。
債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」のことです(破産法16条1項)。
破産というと、借金を抱えて無一文になった場合にするものというイメージがあるかもしれませんが、そこまで追い詰められないとできないものではありません。
支払期限が迫っている債務について、一部の債権者には支払えても、他の債権者には支払えない状態にある場合は、「一般的に」弁済することができない状態になります。
そして、事業の収支から今後もこうした状態が継続する場合は、継続的に弁済することができない状態になります。
法人破産ができるかどうかは判断が難しいこともあるので、分からない場合は早めに弁護士に相談してください。
法人の破産にかかる費用
法人破産では、破産管財人が手続きを進めていくため、最低限、破産管財人の報酬相当額が用意できないと、破産の申立てすらできないので注意しましょう。
法人の破産では、申立てに必要な印紙代や官報公告のための費用の他、予納金の支払いが必要になります。
予納金とは、破産管財人の報酬に当てるための費用のことで、最低でも20万円が必要になります。
また、法人破産の手続きは、複雑で難しいことから、弁護士に依頼する必要性が高く、弁護士費用も掛かります。最低でも50万円以上かがるのが一般的です。
そのため、法人破産をするだけでも、トータルで70万円から100万円程度の費用が掛かってしまいます。
ただ、予納金や着手金の分割払いが可能なケースもあるため、ひとまず弁護士に相談するべきです。
まとめ
経営者の方が、経営していた株式会社などの法人の倒産を機に破産を選択するのは大変重い決断ですし、精神的にもきついはずです。
そのような重大な選択をする場面では、一人の判断で行動するのではなく、周りのサポートが大切です。
破産手続きについては、弁護士が法的なサポートを行いますし、破産後の生活や、関係者との対応も含めた総合的なサポートを行うことができます。
会社の経営が行き詰り、倒産しそうな場合や、破産を考えている場合は、早めに弁護士に相談してください。