建設業(工務店など工事業)における倒産 事業再生の特徴
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1 事業の特性
建設業のうち、建設業法で規定されている専門工事業についてご説明します。専門工事業は、元請けである総合建設業のゼネコンの現場管理の下、下請け専門業者として各工程の施工を担当します。
ア 作業工数によって原価大きく変動するリスクを孕む
下請け専門業者は請負代金に関しては個別工事ごとに折衝して契約を取り交わすケースが大半です。そのため、個別工事ごとの施工計画を立案して予算組みを行うことが必要です。
ここで施工計画及びその工数が正確に積算されないと工事原価を大きく見誤ることが多々あります。
イ 原価変動リスクが大きい
また、専門工事業者は工事施工の実行部隊であるが、現場管理を主業とする総合建設業者と比較すると、各個別工事の原価管理が難しく、リスクが高い業界と言えます。
なぜなら、専門工事業者は、当該請負契約に基づき収益を得ますが、支払については、大半が、職人への日給賃金の支払ですので、工事に投下する工数の増減によって大きく支払い(原価)が変動するためです。
ウ 下請けに不利な業界慣行
さらに、総合建設業者と専門工事業者との間に長きにわたり構築された元請けと下請けという上下関係は一般的に強固で、下請けに不利な業界の慣習が多く残っています。
下請け専門工事業が、設計変更による手直しや工期延長などのしわ寄せの全てを負うケースや、保留金制度による支払の一方的な繰延べ、下請けの承諾なしの値引き、多額の営業経費等の問題が挙げられます。
2 窮境の原因究明
(1)当座の資金確保のための赤字工事の受注
赤字の原因としてはマーケット規模の縮小や工事管理体制が不十分であるために利益がほぼ残らない体質になっていることが多いですが、一旦赤字に陥ると当座の資金獲得のためにさらに赤字工事を受注するという負のスパイラルに陥ることが多いです。
一般的には、下記の原因により赤字を埋める赤字工事の受注という負のスパイラルが始まります。
・受注量確保のために無理な受注を行い、大きな赤字工事が発生(売上至上主義)
・資金環境の悪化が発生。金融機関からの調達増加により、資金繰りを維持
・金融機関からの調達を継続するため、資金繰り目的の赤字工事(財源工事)を獲得
・金融機関からの調達が限界となり、商事与信を膨らませることで資金繰りを維持
・支払い手形が増えたことで、毎月多額の決済資金が必要になり、前受金目的の受注が増加
・資金繰り最優先の受注活動で、赤字が常態化
・資金繰りの維持が経営の目的となり、損益改善の見通しが立たない
・金融機関からの調達環境維持の為に粉飾決算を実施し、本来発生しない社外流出(法人税、消費税等)が発生
・金融機関の融資が停止した途端に手形決済資金が不足となり突発的破綻に移行
3 倒産における特徴
(1)清算予測時の論点
ア 実態貸借対照表
建設業においては運転資金勘定を用いた粉飾決算が行われることが多いです。実態貸借対照表を作成するにあたり、「完成工事未収入金」「未成工事支出金」「未成工事受入金」「工事未払金」の精査が最も重要となります。不適切な処理が行われている場合、これら科目の残高修正と同時に、過年度の損益を再計算し、当該企業の正常な収益力を把握する必要があります。
イ 清算貸借対照表
清算貸借対照表の作成にあたり最も大きく毀損することが想定されるのは未成工事支出金勘定です。未成工事支出金は、工事受注後に立て替えた工事費用を形状する費用性資産ですので、事業継続の前提がなくなった場合、資産性が著しく劣化します。場合によっては、工事中止に伴う損害賠償請求(一般債権)が生じるリスクがあることに留意すべきです。
4 事業再生におけるポイント
(1)収益改善ポイント
ア 実態把握
再生局面の専門工事業では粉飾決算が行われているケースが多いです。後述のとおり、大規模な選択と集中により収益構造の再構築を行う際は、会社の実力を見極めてその実力に基づいて必要水準まで損益分岐点引き下げる必要があります。
したがって、必要な改善額を見極めるためにも、実態貸借対照表・正常収益力の把握を第一に行う必要があります。
イ 損益分岐点の改善
市場規模が長期的に縮小している環境を前提としますと、高い水準の売上高が必要な収益構造から脱却して、受注減少の局面においても利益が出る体質を作ることが有効です。
・赤字工事削減
売上至上主義に起因して個別工事の採算管理がずさんな企業では、多額の赤字工事が存在することが多いです。とくに、専門工事業では、元請け総合建設業との契約で請負金額については一定額確保できますが、現場の工数に応じて発生する原価が大きく変動しますので、数千万円単位の赤字工事が生じることも珍しくありません。
過年度の工事実績を確認して赤字工事の発生要因を特定し、その根本的な要因を取り除くための施策を検討する必要があります。
・固定費削減
専門工事業の固定費の大部分は人件費であることが多いです。前述のとおり、選択と集中を行った上、改めて最少人員で事業を運営できているかの検討が必要です。
通常、工事の受注には季節性があるので、受注が少ない夏場に稼働が空くことが多いです。空いた稼働を埋める収益機会を探すと同時に、人員削減を改めてする必要があります。
・管理体制の整備
専門工事業においては「個別工事の損益管理」「歩掛管理徹底による原価低減」が重要となります。コスト削減を行うと同時にこれらの管理体制を整備することによって、改善施策の効果測定も行うことができるようになり、改善活動を軌道に乗せることが可能になります。
5 弊社でできること
当事務所では法人破産・事業再生に関するご相談対応を行っております。通算150社以上の企業様のご支援をさせていただいた実績を生かして、最適なご提案をさせていただきます。
こちら主導ではなく、経営者様を想い等もくみ取ったうえで、対応方法を一緒に考えていければと存じます。まずは当事務所にお問い合わせいただき、面談にてお話をお伺いさせていただきます。
6 弊社で取り扱った事例
NO.39 破産申立 ⇒ 早期破産申立をして代表者が同業他社に就職できた事例
NO.50 破産申立 ⇒ 代表者の再就職のため早期申立をした事例
NO.56 破産申立 ⇒ 債権者への受任通知後1週間で申立をした事例